第一話 ルゴサへの序章 














2006.2.3 UP
ハマナスを知っていますか?
 植物にあまり関心のない人でも、ハマナスという植物があることを知っている人は多いと思います。しかし、そのハマナスがどんな花を咲かせ、どんな実をつけるのかを知っている人はどれくらいいるのでしょうか。私などは、北海道に住みながら内陸で生まれ育ったせいもあり、ハマナスと接する機会はほとんどなく大人になりました。北海道や東北の海沿いに住んでいる人は、それが日常的に身近な植物でありその姿もよく知っていることと思いますが、それがバラの仲間、いやバラそのものだと聞いて驚く人も多いのではないでしょうか。それでは、ハマナスってどんなバラなのでしょう?
 ハマナスは学名をRosa Rugosa(ロサ・ルゴサ)といい、日本、朝鮮半島、中国北部などに自生する野ばらの一種です。日本では北海道や東北の沿岸に自生しています。自生地の南限は日本海側で島根県、太平洋側で茨城県あたりといわれています。

ハマナスの特徴
 ハマナスは他の野ばらと比較して大きな特徴を持っています。まずは大きな花、原種バラの中ではロサ・ギガンティア以外にこれほど大きな花を持つ野ばらは他にないと思われます。葉脈の堀が深くてでこぼこした葉っぱ、そして何より他のバラと違って見えるのはその太い茎です。普通、バラの枝は先端に行くほど細くなりますが、ハマナスはどこまでも太いままです。さらにその茎にはびっしりと細かい棘が密集しています。株全体の見た目はあまりスマートではありません。むしろ不恰好とも思えるほどです。しかし、最も他のバラと違っているところはその生態にあります。まずハマナスは海岸の砂地に生える海浜植物で、砂の中に地下茎を伸ばして芽を出し群生します。このような増殖の仕方を持ったバラを私は他に知りません。

ハマナスってここが素晴らしい
 ハマナスがバラとして最も優れていると思われる点が三つあります。第一は紫紅色の大きな花とそのすばらしい香りです。花は繰り返して咲き、花後には大きな朱色の実をつけます。秋になると花と実の両方を楽しむこともできます。そして第二はずば抜けた耐寒性の強さです。耐寒性を示すハーディネスゾーンはZone3で、-40℃の極寒にも耐えることができます。そして第三は耐病性の強さです。私はバラの天敵であるうどん粉病や黒点病にかかったハマナスを見たことはありません。

ハイブリッド・ルゴサ
 これだけ素晴らしい特徴を持ち合わせながら、ハマナスが交配親として使われることは長い間ありませんでした。ハマナスがヨーロッパへ渡ったのは、現代バラに革命を起こした中国の四つのバラ(注1)がヨーロッパへ渡った少し後のことでした。はっきり言って時期が悪かったとしか言いようがありません。バラに四季咲きをもたらした中国バラにブリーダーたちが夢中になったことは想像に難くないわけで、不恰好なルゴサの相手をしている暇はなかったのでしょう。それでも、1880年代終わり頃から少しずつロサ・ルゴサの交配種が作られ始めハイブリッド・ルゴサとしてそのカテゴリーが確立されてきました。今まではほんの一部の品種以外、バラ栽培が不可能だった寒冷な地域でも栽培できる品種の登場です。近年、そのスピードは加速されつつあります。

ハマナスとハマナシ
 ところでハマナスをハマナシと呼ぶこともあります。バラの専門家の間ではほぼハマナシで定着しているようです。この謂れについてはいずれ話題にしたいと思いますが、ここではとりあえず「ハマナス」で統一していきたいと思います。

(注1)
1.Slater's Crimson China(スレイターズ・クリムゾン・チャイナ)2.Parson's Pink China(パーソンズ・ピンク・チャイナ)3.Hume's Blush Tea-scented China(ヒュームズ・ブラッシュ・ティー・センティッド・チャイナ)4.Parks's Yellow Tea-scented China(パークス・イエロー・ティー・センティッド・チャイナ)の4種。オールドローズのチャイナ・ローズやティー・ローズの祖であり、後にHTなど四季咲きモダンローズへと発展して行きます。
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