第二話 ルゴサの仲間たち ─変種と自然交雑種─ 




Rosa rugosa alba


Rosa rugosa albo-plena


Rosa rugosa rubra


Rosa x iwara
 コハマナシ



Rosa x micrugosa ロサ・ミクルゴサ


Rosa x micrugosa alba
ロサ・ミクルゴサ・アルバ
 どの植物にもあるように、ハマナスにもいくつかの変種(variety)や自然交雑種があります。変種には花色の変化や花びらの多弁化が見られます。自然交雑種は、ハマナスが寒冷地のバラであり海浜植物であるが故に他のバラとの交雑は多くありません。またハマナスにはいくつもの学名らしき名前とその土地独特の名前があり、どの名前が何に当たるのかよくわからないものもあります。学名の意味も踏まえてその辺のところを探ってみましょう。なお、このルゴサの仲間はARS刊行の「MODERN ROSES XI」から拾い上げました。

Rosa rugosa Thunb (Rosa rugosa) ハマナス(ハマナシ)
 これがハマナスの学名というものです。Rosaは属名でバラ属を意味します。rugosaは種小名で「シワのある」という意味です。もちろん葉っぱのことを言っています。Thunbは学名の命名者Thunberg(ツュンベリー)のことです。

Rosa rugosa alba  (Rosa rugosa albaRosa rugosa albiflora
 白花ハマナス
 Rosa rugosaの白花種です。日本名で白花ハマナス。自生地でも稀にその花を見ることができるようです。albaおよびalbiforiaは「白い」という意味です。

Rosa rugosa plena (Rosa rugosa plena) 八重ハマナス
 Rosa rugosaの八重種です。八重ハマナスとも呼ばれますが、ハイブリッド・ルゴサにも紫紅色八重の品種があり、その区別は難しい。ハンザが八重ハマナスとして売られていた時期がありました。Rosa rugosa plenaは半八重に近い感じで、ハンザやロズレー・ドゥ・ライのような完全な八重種とは違っているようです。plenaは「八重」の意味です

Rosa rugosa albo-plena (Rosa rugosa albo-plena)
 白花八重ハマナス
 Rosa rugosa albaの八重種。非常に珍しく自然界で見ることはほぼなさそうです。これもハイブリッドの園芸種が多くあり見分けはきわめて困難です。ブラン・ドゥブル・ドゥ・クベールを白八重ハマナスといって売っているケースを見たことがあります。香りをかいでダマスクやティーの香りが混じっていたら間違いなく園芸種です。albo-plenaは「白八重」の意味ということになります。

Rosa rugosa rubra (Rosa rugosa rubra)
 さて、このあたりから素性が怪しくなってきます。「rubra」は濃紫紅色を指しています。Rosa rugosaより濃い花色を指しているのでしょうか?写真は百合が原公園でRosa rugosa rubraの表記があったものですが、Rosa rugosaとの花色の違いを見ることはできませんでした。ARSの「MODERN ROSES XI」ではSp(原種)の扱いであり、Rosa rugosaと区別されていました。

Rosa rugosa rubro-plena (Rosa rugosa rubro-plena)
 Rosa rugosa rubraの八重種ということなのでしょうか?実物を見ていないのでわかりませんが、これも園芸種との区別が難しそうです。

Rosa rugosa rosea
 どうもハマナスのピンク種ということらしいのです。野村和子著「オールドローズ花図譜」によるとRosa rugosaの変異種ということでRosa rugosa'Soft Pink'なるものが出ていますが、同じものか?花はフラウ・ダグマー・ハストラップに良く似ていました。

Rosa rugosa rugosa
 このあたりに来ると何をあらわしているのかよくわかりません。
ただ、調べているとRosa rugosa rubra=Rosa rugosa typica=Rosa rugosa rugosa
という図式も見えてきます。真実はわかりません。

さて、ここからは自然交雑種を紹介します。

Rosa davurica(ロサ・ダヴーリカ) ヤマハマナシ
 ロサ・ダヴーリカは原種として扱われているので、交雑種として扱うのは適当でないかもしれません。「オールドローズ花図譜」によると「ハマナシにカラフトイバラが自然交雑されたもの・・・」と書かれているのでここに入れることにしました。カラフトイバラと同一という記述も見られますが、これは誤りのようです。

Rosa x iwara(ロサ・イワラ) コハマナシ
 ハマナスとノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)の交雑種。花は中央が白に縁がピンクの一重咲き。房咲きの所はノイバラですが棘の多いところや葉はハマナスに似ています。

Rosa x micrugosa(ロサ・ミクルゴサ)/Micrugosa(ミクルゴサ)
 ロサ・ミクロフィラ(サンショウバラ)とロサ・ルゴサの交雑種。名前は両者をつなぎ合わせたものです。実にたくさんの棘があります。

Rosa x micrugosa alba(ロサ・ミクルゴサ・アルバ)/Micrugosa alba(ミクルゴサ・アルバ)
 ミクルゴサの白花

Rosa rugosa kamtchatica(ロサ・ルゴサ・カムチャティカ)/
 Rosa kamtchatica
(ロサ・カムチャティカ)

 原種の扱いですが「オールドローズ花図譜」によるとハマナスとオオタカネバラの交雑種ではないかということです。ということで一応お仲間入りです。


 さて、ここで学名についてちょっとお話します。学名は普通〔属名〕+〔種小名〕で表されます。植物や動物などには分類学上の階級があって、バラで言えば〔Rosa〕が〔属名〕ですが、細かく書くと属名の下には注1〔亜属〕がありますが省略されます。その下に注2〔節〕〔亜節〕がありますがこれも省略されます。続いて〔種〕を表す言葉が続きます。ハマナスで言えば〔rugosa〕がこの種を表す言葉となり、これを〔種小名〕といいます。〔種〕には、さらにその種が変異したものとして〔亜種〕〔変種〕〔品種〕があり種小名の後に続けて書きます。上に書いた例ではrugosaの下に〔alba〕とか〔plena〕とかがそれにあたります。
 正しく書くと
Rosa rugosa alba
Rosa rugosa Thunb. var.alba Rehderとなります。
属名、種小名の部分はイタリック体で表すのが決まりです。Thunb.はRosa rugosaの学名をつけたThunbergを、Rehderはalbaの変種名をつけたRehderをあらわします。
〔var.〕は変種〔variety〕を意味します。亜種は〔subspecies〕のことで普通は〔subsp.〕あるいは〔ssp.〕と書きます。品種〔forma〕は園芸品種のことではなく分類学上の種を表し、〔f.〕と書きます。この〔亜種〕、〔変種〕、〔品種〕については明快な区別は難しく〔var. alba〕とするか〔f. alba〕とするかは私には良くわかりません。


注1:バラ属の場合、〔バラ亜属〕の他に〔フルテミア亜属〕〔プラティロドン亜属〕〔ヘスペロードス亜属〕の四つの亜属があります。

注2:バラの〔節〕はバンクシアエ、ブラクテアータ、カニーナ、カロリーナ、キンナモメア、ガリカ、インディカ、ラエヴィガータ、ピンピネリフォーリア、シンステラの10の節からなります。ハマナスはキンナモメア節です。
 2006.2.5 UP
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<参考文献>
<書籍>
MODERN ROSES XI  The American Rose Society
encyclopedia of ROSES  The American Rose Society
ばら花譜 二口善雄、鈴木省三、籾山泰一 平凡社 1999.10(新装改訂版)
ばら花図譜(国際版) 鈴木省三 小学館 1996.4
オールドローズ花図譜 野村和子 小学館 2004.4


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